最後の一杯 桂ちゃん

人間の思考というものは極めて自分中心にできていて
いったんそうだと思ったらそれに反する事実が見えなくなることさえあります
いつものように戸を開けていつもの席に座ろうとすると
「あと細麺しか残ってないですよ」
「そやから暖簾仕舞ってるのに…」
そういわれて振り返ると確かに暖簾は店の中に片づけられています
「食べたい」
この一念が閉店のサインさえ見逃したようです
地味に気合いが入っていたのかもしれません
一年に二回ざるを食べるのも異例ならば
連続してざるを食べるのも異例
おそらく初めてのことじゃないでしょうか
それでも桂ちゃんのうどんにありつけるならば上等
蒸し暑さを吹き飛ばすには充分な一品
表に出ると涼しい風が吹いています
激しい雨も降ってきました
賑やかな雷も鳴りだしました
「フッ」
苦笑いひとつ残して土砂降りの雨の中
折りたたみの傘を広げるのでした
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